猶予期間終了後、即時猶予分の支払いを求められた場合、4割以上がかなり資金繰りが厳しくなると回答
令和2年4月、新型コロナ特別措置法の成立・施行に合わせ「納税や社会保険料の特例(特例猶予)」が創設されました。
※参照:https://www.jil.go.jp/tokusyu/covid-19/support/pay-yuyo.html
これにより、申請書を提出し許可を受けた企業に関しては、原則として1年間(状況に応じて更に1年間)納税や支払いが猶予されることになっています。
コロナ禍ならではの救済策ではありますが、こういった制度があるにもかかわらず、様々な理由による経営難から倒産、破産を強いられる企業や店舗は多いようです。
納税や社会保険の支払い猶予制度を利用したにもかかわらず、厳しい経営状態が続いている企業では、一体何が起きているのでしょうか。
そこで今回、コロナによる納税猶予制度を利用している中小企業経営者(従業員50人以下)を対象に、「コロナ納税猶予制度利用者の現状 」に関する調査を実施しました。
納税・社会保険支払い猶予制度、利用することになった経緯は?
はじめに、納税や社会保険支払いの猶予制度を利用することになった経緯を聞いてみました。
「制度を利用した当初、納税・社会保険支払い猶予がなければ倒産の可能性がありましたか?」と質問したところ、6割以上の方が『はい(66.9%)』 と回答しました。
この結果から、コロナショックの影響で経営難に陥っていたという中小企業がかなりの割合を占めているのがわかります。
倒産の可能性もあるという厳しい状況で、納税・社会保険支払い猶予制度を利用するまでにはどういった経緯、苦悩があったのでしょうか。
詳しく聞いてみました。
■納税・社会保険支払い猶予制度を利用した経緯、理由は?
- 税理士からの提案を受けて(30代/男性/千葉県)
- コロナで契約数が落ち込み資金繰りが苦しかったから(40代/男性/岡山県)
- 売上げが不安定で納税資金が不足していたため(40代/男性/神奈川県)
- 給料の支払いのため(40代/男性/大阪府)
- 売上げ減少で納税できなくなったので相談に行ったから(50代/男性/大阪府)
などの回答が寄せられました。
やはり売上げの減少や資金の不足、それにより納税や給料の支払いが難しくなってしまうことを理由に猶予制度を利用した方が多いようです。
税理士や会計士に相談して勧められた、という声も多く見られたため、税金やお金のプロフェッショナルである立場の方からも信頼されている制度であるといえます。
税金・社会保険の支払い猶予期間終了後も5割の企業が未だ支払いを終えておらず
猶予制度を利用することとなった経緯が明らかになりましたが、現在の税金・保険料の支払いについてどのような状況になのでしょうか。
「現在、納税・社会保険支払いはどのような状況ですか?」と質問したところ、『猶予期間が終わり、支払いを終えている(39.5%)』『猶予期間が終わり、支払いをしている途中である(40.9%)』『猶予期間が終わったが、支払いきれず滞納したままである(10.1%)』『現在も猶予期間中である(9.5%)』 という回答結果になりました。
猶予期間が終わったものの猶予分が完済できていない、まだ返済途中であるという企業が半分を占めています。
猶予制度を利用することによって延滞税は軽減されますが、その間に経営を立て直し猶予分の支払いをするのは厳しいのではないかと思わされる結果です。
では、猶予期間が終了した後に即猶予分の支払いを求められた場合、どのようになると思うのでしょうか。
前の質問で『現在も猶予期間中である』と回答した方に、「納税・社会保険支払い猶予期間の終了後、即時猶予分の支払いを求められたら資金繰りはどうようになると思いますか?」と質問したところ、『かなり厳しくなると思う(43.3%)』『多少厳しくはなるが、乗り越えられると思う(24.7%)』『まったく問題ないと思う(32.0%)』 という回答結果になりました。
納税・保険料支払い猶予制度の猶予期間は原則1年間と紹介しましたが、猶予分を支払うまでにその期間で資金繰りを改善させるのは難しいかもしれません。
猶予分の支払いは長期でなら可能、もしくは難しいと回答したのが4割
猶予期間の終了後、すぐに猶予分の支払いを求められたら資金繰りが厳しくなる、多少厳しくなると思う方が多いことがわかりました。
では、国税や社会保険の催促状況はどうなっているのでしょうか。
先ほどの質問で『猶予期間を終え支払いをしている途中である』『猶予期間が終わったが支払いきれず滞納している』と回答した方に、「国税や社会保険の催促状況はどのようになっていますか?」と質問したところ、『かなり圧をかけられている(23.6%)』『督促状が届いている(38.0%)』『特に催促はされていない(38.4%)』 という回答結果になりました。
半数以上の方が督促状などの方法で「早く支払うように」という圧力をかけられているようです。
では、猶予期間再開後、税金や社会保険料の支払いをしながら猶予分の支払いをしていくことは可能だと思うのでしょうか。
そこで、「猶予期間再開後、通常どおり税や社会保険料の支払いをしながら、猶予分の支払いは可能であると思いますか?」と質問したところ、『可能だと思う(19.9%)』『1年以内であれば可能(40.4%)』『長期で猶予した分を支払うのであれば可能(30.8%)』『難しいと思う(8.9%)』 という回答結果になりました。
おおよそ期間を長期で見れば支払い可能が多数ですが、難しいという回答もふまえ約4割は短期的な支払いは難しいという結果となりました。
猶予期間があったとはいえ、なかなか資金繰りに苦戦している様子が窺えました。
前の質問で『難しいと思う』と回答した方にその理由について詳しく聞いてみました。
■税金の支払い状況が厳しい原因、理由について教えてください
- 営業がうまくいかず綱渡り状態だから(30代/男性/福島県)
- 売上げが戻らない(40代/男性/島根県)
- お客様の数が減ったため(40代/女性/北海道)
- 景気が悪いから(50代/男性/大阪府)
猶予制度を活かし、立て直した企業も!8割の経営者が「制度を利用して良かった」と回答
猶予期間を再開しても通常通りの支払いと猶予分の支払いを行うのは難しいと思う方がいることがわかりました。
では、現在の経営状況はどのようになっているのでしょうか。
「現在、売上げ状況はどのようになっていますか?」と質問したところ、『コロナ禍以前よりも良い(16.5%)』『コロナ禍以前と同じくらいまでに戻った(28.8%)』『コロナ禍以前ほどではないが、回復しつつある(37.4%)』『コロナ禍以前には程遠い(17.3%)』 という回答結果になりました。
おおよそ不調復調半々といった結果となりましたが、猶予制度を利用して良かったかどうか、どのように思っているのでしょうか。
そこで、「コロナによる納税・社会保険猶予制度を利用して良かったと思いますか?」と質問したところ、『とてもそう思う(31.3%)』『ある程度そう思う(49.0%)』『あまりそう思わない(13.6%)』『全くそう思わない(6.1%)』 という回答結果になりました。
8割以上の方が猶予制度を利用して良かったと感じているようです。
実際に会社の経営を行っていく立場だからこそ思う、納税や社会保険についての国への要望を聞いてみました。
■経営者として納税・社会保険に関する国への要望や意見
- もう少し猶予期間を延長してほしい(30代/男性/静岡県)
- 最低賃金上げた割には雇用者側への負担軽減策が不十分(30代/男性/愛知県)
- もう少し現場を理解してほしい(30代/男性/北海道)
- 飲食店ばかりにあった、減税措置、補助金などの対策が必要(40代/男性/熊本県)
- もっと優遇しないと厳しい会社がたくさんあるのを分かってほしい(40代/男性/埼玉県)
猶予制度について期間を延長してほしい、猶予ではなく免除をしてほしいという声が多く、中小企業の現状にしっかりと目を向けてほしいといった意見が目立ちました。
【まとめ】コロナ禍における企業経営の現実は厳しい。そんな中、納税猶予制度を活用し、会社の立て直しに成功した経営者も!
今回の調査で、実際に猶予制度を利用した中小企業の現状、本音が明らかになりました。
多くの企業が経営状態は芳しいとはいえず、猶予制度が終了した後の支払いに追われている厳しい現実が見られますね。
しかし、猶予制度については利用して良かったと感じている方が8割以上もいるという、高い結果も見えています。
納税や社会保険に関する国への要望の中にあったように、制度や支援自体はありがたいが、会社を立て直すには期間が短すぎるといったことが一番の課題なのかもしれません。